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東京地方裁判所 昭和63年(合わ)57号 判決 1988年7月27日

主文

被告人を懲役二年六月に処する。

未決勾留日数中六〇日を右刑に算入する。

押収してある自動装填式けん銃一五丁を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、営利の目的で、A、B及び被告人の兄Cらが、日本国へ、法定の除外事由がないのに営利の目的でけん銃を密輸入し、かつ、法定の許可を受けていないのにけん銃用実包を密輸入しようと企て、共謀の上、自動装填式けん銃一五丁及びけん銃用実包七六発を大理石風木製テーブル内に隠匿して、横浜市神奈川区大口通《番地省略》甲野マンション四〇七号室Dにあてた航空貨物でフィリピン共和国から発送し、昭和六三年二月二二日、エジプト航空第八六四便で同国アキノ国際空港から千葉県成田市三里塚字御料牧場一番地の一新東京国際空港に到着させ、情を知らない航空関係作業員をしてこれを取り降ろさせてけん銃及びけん銃用実包を日本国内に持ち込んで輸入するとともに、同月二三日ころ、情を知らない航空関係運輸業者をして同県市川市原木二五二六番地所在の東京エアーカーゴシティターミナル株式会社保税上屋に保税運送させて税関長の許可を受けることなく右けん銃及びけん銃用実包を輸入しようとしたが、同月二五日、これを東京税関職員に発見されたため、その目的を遂げなかつた各犯行に関し、これに先立って、同月一五日ころ、右Cから頼まれて、右Bと一緒に、右テーブルをフィリピン共和国内にある国際航空貨物輸出入運送業者Eジャパン株式会社マニラ支店に持ち込んだ上、同所において、右テーブル内にけん銃及びけん銃用実包が隠されているかもしれず、Cらがこれを日本国に密輸入して売り捌くつもりかもしれないと考えながら、けん銃及びけん銃用実包が隠匿された右テーブルにつき、妻名義の小切手で送料を支払うなどしてその発送手続を行い、もつて、営利の目的で、Cらの犯行を容易ならしめてこれを幇助したものである。

(証拠の標目)《省略》

(予備的訴因を認めた理由)

検察官は、主位的訴因として、被告人がほか数名の者と共謀の上、判示けん銃・実包の密輸入を実行した旨主張し、これに対して弁護人は、右密輸入の実行者はC、A、Bらであつて、被告人はこれを幇助したにすぎない旨主張するので、この点につき判断する。

前掲関係各証拠によれば、被告人は本件けん銃及び実包が隠匿された大理石風木製テーブルを、国際航空貨物輸出入運送業者Eジャパン株式会社(以下「E社」という。)マニラ支店に運び込み、これを日本に発送する手続を行っているが、被告人が右発送手続をとるに至った経緯及びその後の経緯は、次のとおりであったことが認められる。すなわち、(一)被告人は、昭和六三年二月一五日ころ、A及び被告人の兄Cらにマニラ市内の喫茶店に呼び出され、Cから、Bと一緒に輸出業者へ行って、荷物を日本にいるDあてに発送するよう頼まれた、(二)被告人がCらから発送を依頼された荷物は、表面に大理石風合成樹脂製板を用いた木製テーブル一個であったが、そのテーブル板裏面には、けん銃一五丁及びその実包七六発を石膏で固め、その上から黒色布を貼り付けて隠匿してあり、さらにその全体を緩衝用シートとダンボール片で包んで梱包したものであった、(三)被告人は、Cらの依頼を受け、Bと共に右喫茶店の駐車場に駐車中のワゴン車に乗ってE社のマニラ支店に向かったが、右ワゴン車には既に梱包済みの本件テーブルが積み込まれており、被告人がBに中味を尋ねたところ、同人は、「イタリア製の大理石のテーブルだ」と答えた、(四)被告人は、E社のマニラ支店において、Bの代理人として右テーブルを横浜在住のDあてに発送する手続を行ったが、その際、右テーブルの計量をしたE社の従業員が、「重いぞ。送料が高くなる」などと言うのを聞いたのに加えて、当初三〇〇〇ペソ以下と考えていた送料を三六三〇ペソ請求され、Bの所持金では不足したことから、右テーブルの中には何か違法なもの、たとえばけん銃やその弾丸が隠されているかもしれず、Cらがこれを、日本に密輸して売り捌くつもりかもしれないと考えたが、そのまま被告人の妻名義の小切手を用いて右送料を支払い、発送手続を済ませた、(五)右テーブルは、判示のとおり、情を知らないE社の従業員ほか航空関係作業員らによって同月二二日に本邦内に持ち込まれ、更に同月二三日ころ、保税上屋内に持ち込まれたが、同月二五日、保税線を通過する前に税関職員によりけん銃及び実包が発見され、直ちに押収された、(六)他方、被告人は、前記発送手続後の同月一六日ころ、マニラ市内のコーヒーショップでAらに会い、その際、Aから「お前に日本に行ってもらうかもしれない。Fに会って手を貸してやってくれ。往復の飛行機代のほかに五〇〇ドルやるから」などと言われ、さらに、同年三月一日、マニラ市内のレストランでA及びCに会い、Aからテーブルの中味がけん銃であることを告げられた上、日本に行つてDからテーブルを受け取ってFに渡し、同人からけん銃等の代金三七五万円を受け取って来るよう命じられ、翌三月二日に来日し、Fと落ち合った上、右D宅に赴いたが、予め待機していた捜査官に逮捕された、以上の経緯が認められる。

そこで、検討すると、被告人は、本件テーブルの発送手続時点において、右テーブル内にけん銃及びその実包が隠されているかもしれず、Cらがこれを日本に密輸して売り捌くつもりなのかもしれない旨の認識を、未必的に持つに至ったものと認められ、発送手続前においてかかる認識を持っていたものと認めるに足りる証拠はない。一方、被告人がけん銃等の隠匿を未必的に認識した後発送手続終了までの間、C、Aの両名はその場におらず、またE社に同行したAが、この僅かな時間内に被告人の右未必的認識を察知して、けん銃等の密輸行為につき被告人と互いに意思を相通じたと認めるに足りる証拠はなく、被告人の片面的、未必的認識の限度に止まると言うべきである。そして、被告人が本件密輸入に果たした役割をみると、被告人は、本件において、最終的にはC、Aから、DからFへの本件テーブルの受け継ぎと、けん銃等の代金回収という重要な役割を依頼されているが、これを初めて打診されたのは、本件テーブルの発送手続後であり、被告人の来日が最終的に決まり、被告人がけん銃等の隠匿のことをAらから初めて告げられたのは、証拠上は日本国で既に判示密輸入行為を発覚した後であって、本件テーブルの発送手続時には、被告人は右のような重要な役割まで担うことについては認識がなかった。そして、右の来日後の役割を除くと、被告人がけん銃等の調達、隠匿等の実質的行為に関与したという証拠はなく、単に、貨物輸出入運送業者での本件テーブルの発送手続にかかわったのみであり、右発送手続自体もB名義で行われているのであって、被告人の本件への関与は、重要な部分に関するものではあるが、特に被告人でなくともなし得る形式的・機械的行為を行ったにすぎない。加えて、被告人が、発送手続後、来日の報酬として告げられた額も五〇〇ドルで、けん銃等の代金総額三七五万円と比較するとごく一部にすぎないのであって、これらの諸点を併せ考えると、判示けん銃・実包の密輸入行為に際し、これにつき被告人がCらと共謀していたと認めるには未だ証明十分とは言い難く、むしろ、被告人は、CやAらに利用され、本件テーブルの形式的な発送手続を行おうとしたが、右手続中Cらの密輸入行為につき未必的な認識を持つに至ったものの、実兄からの依頼ということもあつて、これを幇助する意思のもとに、そのまま右発送手続を完了させたものと認められる。したがって、被告人には、判示のとおり、検察官が予備的訴因として主張する幇助犯を認めるのが相当である。

(法令の適用)

被告人の判示所為中、けん銃密輸入幇助の点は刑法六二条一項、銃砲刀剣類所持等取締法三一条二項、一項、三条の二に、けん銃用実包無許可輸入幇助の点は刑法六二条一項、火薬類取締法五八条四号、二四条一項(五〇条の二第一項)に、貨物の無許可輸入未遂幇助の点は刑法六二条一項、関税法一一一条二項、一項にそれぞれ該当するが、以上は一個の行為で三個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として最も重い銃砲刀剣類所持等取締法違反幇助の罪の刑で処断することとし、その所定刑中懲役刑のみを科することとし、右は従犯であるから刑法六三条、六八条三号により法律上の減軽をした刑期の範囲内で被告人を懲役二年六月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中六〇日を右刑に算入し、押収してあるけん銃一五丁は、判示関税法違反の罪に係る輸入制限貨物等に当たり、犯人が所有するものであるから、関税法一一八条一項本文によりいずれも没収し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して被告人に負担させないこととする。

(最刑の事情)

本件は、フィリピン人である被告人が、実兄らの依頼を受け、大理石風木製テーブルをマニラから日本に向けて発送する手続を行っている際、右テーブル内にけん銃・実包が隠匿されているかもしれず、実兄らはこれを日本に密輸入して売り捌くつもりであるかもしれないと気付きながら、営利の目的をもつて、これを幇助する意思で、右発送手続を行い、実兄らの右けん銃・実包の密輸行為を幇助したという事犯であるが、被告人は、当初は事情を知らなかったとはいえ、途中、けん銃等が隠匿されていると察知した後も、発送手続を中止するどころか、請求された予想以上の送料を妻名義の小切手で支払うなどしており、その経緯、動機に酌むべき点は少ない。また、本件本犯の行為をみるに、密輸入にかかるけん銃・実包はいずれも真正のもので、相当の殺傷能力を有すると認められるところ、その数も多く、輸入行為の態様も、大理石風木製テーブルの裏面に石膏で固め、その上から黒色布を貼り付けて隠匿し、輸出許可を必要としない見本品貨物を装い業者を利用して本邦内に持ち込もうとしたものであつて、誠に大胆かつ巧妙と言うほかなく、極めて悪質である。これに関与した被告人の幇助行為は、形式的なものとはいえ、この種運送業者を利用して密輸入する犯行態様においては、重要な行為と言うべきであり、さらに、被告人は、発送手続後けん銃等の受け継ぎと代金の回収を命ぜられて来日しており、けん銃等の密輸入行為が、最終的にはこれを売り捌いた利益の獲得を目的とすることに鑑みれば、実行行為終了後の事情とはいえ、被告人に与えられた役割は極めて重要であって、これを承諾した被告人の犯情は悪質である。これに加え、近時、暴力団等の抗争にけん銃等が用いられ、一般市民にまで累が及ぶ事件が相次いでおり、銃器の密輸入に対して、一層厳重な対応が社会的に要請されていること等併せ考えると、被告人の刑事責任は重いと言わなければならない。したがって、被告人は従犯であり、しかも、未必的故意しか有しなかったこと、本件密輸入にかかるけん銃・実包は、幸い税関職員により発見され、日本国内に流出しておらず、被告人自身も本件に関しては未だ利益を得ていないこと、被告人は現在では本件を深く反省し、更生を誓っていること、被告人には前科もなく、フィリピンに扶養すべき家族もいること等被告人にとり酌むべき事情を最大限に考慮しても、主文程度の実刑はやむを得ないものと判断する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判良裁判官 村上光鵄 裁判官 清水肇 稗田雅洋)

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